相続について不正な利益を得ようとして不法な行為をし、または、しようとした者に相続させることは、認めるられるべきではありません。
そこで、民法(相続法)では、これらの者から相続権を剥奪する(相続欠格)という民事上の制裁を負わせることを規定しています。
どのようなケースで「相続欠格」とされるのかは、民法第891条(相続欠格事由)に定められており、次の5つがあります。
【相続欠格事由1】
故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
(参考)
*故意とは?
一定の侵害結果の発生を認識しながら、それを認容して行為する心理状態のこと
(解説)
※民法891条でいう「故意」とは、殺人の故意(殺意)を指します。
よって、以下の場合のような殺人の故意が認められないケース①、②においては、この相続欠格事由には該当せず、続人となることができます。(大審院大正11年9月25日判決)
①暴行や傷害の故意しかない者(加害者)が、結果的に被相続人または相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡させた場合には、殺人罪は成立せず、傷害致死罪が成立するにとどまります。
②暴行や傷害の故意もない者(加害者)が、不注意で被相続人または相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡させた場合には、過失致死罪などが問われるにとどまります。
また、「刑に処せられた者」が要件として定められているため、被相続人を殺害した場合でも、判決を受ける前に死亡した場合は欠格事由にあたらないことになります。
(例)
このようなケースはどうなるでしょうか?
(Aさんの相続人が妻Bさんと子である場合)
「子が父であるAさんを殺害した場合どうなるか?」
→ 父(Aさん)を殺害した子は、父(Aさん)の相続について欠格事由に該当し、相続人となることができません。
さらに、「この子が母(Bさん)の相続人となることができるか?」についても考えてみましょう・・・
父(Aさん)と子は母(Bさん)の相続について同順位です。
そのため、子は、Bさんの相続について同順位である父を殺害したことにより、母(Bさん)の相続についても欠格事由に該当し、相続人となることはできません。
【相続欠格事由2】
被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
(参考)
「ただし、・・・」の部分に注目してください。
例えば、被相続人を殺害した者が自分の子であった場合、これを告訴しなくても欠格事由にはあたりません。
【相続欠格事由3】
詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
【相続欠格事由4】
詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
【相続欠格事由5】
相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
(参考)ここでいう「隠匿」については、もっぱら自らの利益を図るための隠匿のみが欠格事由にあたると解釈されています。